未成熟コーヒー豆が与える影響は、コーヒー生産の各段階において無視できない重要な課題である。未成熟なコーヒー豆は、収穫、発酵、焙煎、などで問題を引き起こし、最終的なコーヒーのフレーバーに悪影響を与える。最終的に、どのように影響するかを理解することは品質向上のために極めて重要であるが、なぜ未成熟豆が問題なのかを説明した記事は少ない。
ここでは、最新の学術論文とLuLaLao Coffee 農園における実践を併せて、未成熟豆の特性とその影響について詳述し、コーヒーの収穫、発酵、焙煎の各プロセスでの最適な戦略を考察する。また、糖度(Brix)と熟度の関係、発酵中に発生する変化、焙煎における課題についても検討する。
▼ INDEX |
1. 未成熟豆の化学的・物理的特性
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2. 焙煎における未成熟豆の課題
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3. 糖度(Brix)と収穫時期の関係 |
4. 発酵プロセスにおける影響 |
5. 結論 - 農園ツアーに参加すればいい。
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1. 未成熟豆の化学的・物理的特性
未成熟豆は、熟した豆と比較して大きく異なる化学組成と物理的特性を持つ。未成熟豆は酸味が強く、スクロース含量が少ないことから、焙煎後のコーヒーの風味に大きな影響を与える。これにより、甘味やバランスの取れた風味が欠如し、酸味や苦味が前面に出ることが多い(Mazzafera, 1999)。また、未成熟豆は通常、重量が軽く、含水量も低いため、焙煎プロセス中の熱伝導が不均一になりやすい。この結果、焙煎が不十分となり、風味にばらつきが生じることがある(Mazzafera, 1999)。
*化学組成とは、コーヒー豆の中に何が入っているか、ということ。例えば、コーヒー豆には砂糖みたいな「甘い」成分や、「酸っぱい」成分、それから「苦い」成分が少しずつ共存している。未成熟のコーヒー豆は、甘い成分が少なく、酸っぱい成分が多い。つまり、出来上がったコーヒーも酸っぱくてあまり甘くない感じになる。
*物理的特性とは、コーヒー豆の重さや形、大きさなど、見た目や触ったときに感じるもののこと。未成熟のコーヒー豆は、通常よりも軽く、緑色である。また、水分が少なく、均一に焼けにくい。よって、コーヒーの味にばらつきが出る。
化学的特徴
化学的には、未成熟豆は熟した豆に比べて高い酸性度を持ち、糖含量、特にスクロースが少ない。これにより、メイラード反応やカラメル化反応が制限され、結果として風味が少なく、甘味やコクに欠けるコーヒーが出来上がる。また、未成熟豆にはクロロゲン酸などの化合物が多く残り、苦味が強調される(Mazzafera, 1999)。
物理的特徴
物理的には、未成熟豆は比重が軽く、見た目は緑がかっている。豆を選別する際、未成熟豆の選別は難しくないが、機械選別か手作業によって作業負荷が大きく変わる。また、含水量が少ないため、焙煎中に水分が早く蒸発し、内部まで均一に熱が伝わらず、焙煎ムラが生じるリスクが高くなる(Mazzafera, 1999)。
2. 焙煎における未成熟豆の課題
焙煎はコーヒーの風味を最大限に引き出すために不可欠な工程であるが、未成熟豆は焙煎中に多くの課題を引き起こす。特に、未成熟豆は均一に加熱されにくく、焙煎の結果がばらつくことがある。
焙煎は、豆の水分を蒸発させつつ温度を徐々に上げることで、豆内部で化学反応を促進し、香りや風味を形成する重要な過程である。メイラード反応やカラメル化は、このプロセス中に発生し、コーヒーの複雑な風味が引き出される。しかし、未成熟豆の場合、含水量が少ないため、これらの反応が十分に進まず、風味が不完全な状態で止まってしまうことがある(Al-Shemmeri et al., 2023)。
そして、含水量が少ない豆は、内部まで均一に熱が伝わらず、一部の豆が未焙煎のままで残る一方、他の豆は過焙煎となる可能性がある。未成熟豆によるばらつきは化学反応が効果的に進行しないことが多い。そのため、最終的なコーヒーは酸味が強く、甘味が不足し、全体としてバランスの取れない味わいになりがちである(Xiaoqing, 2020)。
未成熟豆の焙煎における課題を解決するために、最新技術が活用されている。例えば、カラーセンサーを使用して、豆の成熟度を正確に判別し、適切な焙煎プロファイルを選択する技術が進化している(Imammuddien et al., 2022)。
農家・焙煎所・カフェというそれぞれの立場を持つLuLaLao Coffee からすると、非常に複雑である。なぜならば、農家としての立場から言えば、焙煎機の発達は農家への負担が減るからありがたい。一方で、焙煎所・カフェの立場から言えば、コーヒー農家に頑張ってもらいたい。このようなジレンマはいつも混在している。
3. 糖度(Brix)と収穫時期の関係
コーヒーチェリーの収穫時期は、最終的なコーヒーの品質に大きく影響を与える要因である。特に、糖度(Brix)は、果実の成熟度を示す指標として利用され、収穫の決定において重要な役割を果たす。しかし、Brixだけではなく、他の情報も考慮に入れる必要がある。
Brix糖度計とYellow Caturra
一般的に、熟したコーヒーチェリーは糖度が高く、風味が豊かで甘味が強い。しかし、果皮の糖度が必ずしも豆内部の糖分を反映しているわけではなく、Brixの値に基づいて収穫を判断することは必ずしも最適な方法ではない。研究によれば、果実内部 (コーヒーチェリーってなに?) と果皮の糖蓄積は異なるメカニズムで制御されているため、Brixだけでは不十分であることが明らかにされている(Baptistella et al., 2024)。
糖度以外にも、果皮の色の変化などの視覚的指標が重要である。研究によれば、果皮の赤みや反射率などの視覚的要素が、コーヒーの品質とより強い関連を持っていると示している。糖度だけに頼ることなく、視覚的要素も収穫時期の判断に取り入れる方が良い(Silva et al., 2012)。
コーヒーチェリーの移り変わり
最適な収穫タイミングは、チェリーが完全に赤く熟し、糖度が最も高くなった時期である。しかし、LuLaLao Coffee 農園は北部に2つ、南部に2つ、そして、合計6つの品種があり、それぞれ色も糖度も異なる。つまり、一律の基準で判断することは難しい。手で一つひとつ熟したチェリーのみを収穫を行うことが品質向上に貢献する。しかし、1年に2ヶ月程度しかない収穫期に、向上させることができる収穫技術は限られている。それでも、LuLaLao Coffee は少しづつ、着実に、成長している。
4. 発酵プロセスにおける影響
未成熟なコーヒーチェリーが引き起こす最も大きい問題は、色や形、焙煎のムラよりも、発酵プロセスにある。未成熟豆は糖含量が少ないため、発酵プロセスにおいて微生物の活動が制限され、風味の発展が不十分になることが多い。
未成熟チェリーのグルコースとフルクトース濃度は、それぞれ0.13 g/Lおよび0.26 g/Lであり、熟したチェリーの0.57 g/Lおよび1.13 g/Lに比べて顕著に低いことが報告されている。この糖分不足により、微生物が代謝物を効率的に生成できず、上手く発酵しない(Vale et al., 2019)。
これは論文からの1例であり、理論的には正しい。しかし、実際には数10kgから数100kgのチェリーを同時に精製するため、さほど多くの影響を受けることがない。また、特定の酵母や乳酸菌を用いた制御発酵を行うことで、最終的なフレーバーを改善することができる。たとえば、Pichia fermentansを使用することで、揮発性化合物(2-ヘキサノール、ノナナール、D-リモネンなど)の生成が促進され、未成熟チェリーからもある程度のアロマを引き出すことができる(Vale et al., 2019)。
ただし、LuLaLao Coffee 農園としては、ウォッシュドプロセスやハニープロセスにおいて、発酵への影響は少ないと感じている。ナチュラルプロセスのように、チェリーとコーヒー豆が1対1であれば、未成熟豆は明らかに発酵プロセスが遅れる。しかし、発酵槽内でミューシレージを発酵させる、いわゆるウェット系プロセスであれば、十分に未成熟豆の遅れをカバーできる。
実際問題、焙煎することによって明らかになる未成熟豆は、未成熟豆全体の数%程度であり、残りの90%程度はしれっと紛れ込んでいる。つまり、農家、焙煎所、カフェ、消費者において、ほとんどの未成熟豆は通常の豆と同じ扱いを受けいる。これが現実である。
5. 結論 - 農園ツアーに参加すればいい。
いずれにせよ、あまりに多い未成熟豆は無視できないほどの影響がある。未成熟豆は、収穫から発酵、焙煎に至るまで、風味や品質に多大な影響を及ぼす。最適な収穫タイミングを見極め、糖度や熟度、視覚的指標を組み合わせて判断することが、品質の向上につながる。また、発酵や焙煎プロセスでのモニタリングにより、問題を最小限に抑えることが可能である。
今回は少し難しい話になってしまった気がしている。しかし、この記事をここまで読み切った人の多くは、日本のカフェや焙煎所、スペシャルティーコーヒーに携わる、もしくは日々スペシャルティーコーヒーを飲んでいる人であると仮定している。そうした人には特に、農園ツアーに参加してもらいたい。実際に手を動かして収穫・発酵・乾燥を行うことで、理解できることは多いと思う。
料金:800$ / 人 (ホテル・食事込み)
日程:2泊3日
内容:育苗、収穫、精製、乾燥
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