[Coffee history in Laos] ラオスコーヒーの歴史

[Coffee history in Laos] ラオスコーヒーの歴史

東南アジアの桃源郷と呼ばれるラオス。ラオスには雄大なメコン川と豊かな自然の魅力が満載であるが、はたしてどれだけの人がコーヒーの生産地であるということを知っているのだろうか。

ひと昔前の「コーヒーはおじさんの飲み物」という概念は薄れつつあり、近年ではいたる所にコーヒースタンドが乱立している。さらにコンビニエンスストアでは手軽に、そして安くコーヒーを飲むことができる。そのおかげで大学生や高校生が朝からコーヒーカップを持ち歩いている姿も珍しくない。そうしたコーヒースタンドなどでは、おそらくコーヒー豆の生産国を記載しているはずである。さらに、精製方法や標高、フレバーなども付け加えられているのではないだろうか。「エチオピア・ナチュラル・標高1400m・赤リンゴやラズベリーのような香り」といった具合で。そして、それが5種類、取り扱いが多い店だと10種類にもなることもしばしば。

まずコーヒー豆のリストで目にするのは生産国だと思うが、その中に「ラオス」という文字を見たことはあるだろうか?99%の人は見たことがないでしょう。LuLaLao Coffee にとって、こんな悲しいことはない。本記事ではラオスのコーヒーを少しでも多くの人に知ってもらいたい!!という想いから、ラオスの基礎情報と「ラオス産コーヒーにはどんな特徴があるのか?」について、簡単にまとめた。

 

 ▼INDEX
1. ラオスの概要
2. ラオスのコーヒー生産事情
3. 特徴
4. 未来へ



1. ラオスの概要

ラオスはインドシナ半島に位置し、北は中国・ミャンマー、東はベトナム、西はタイ、南はカンボジアの5カ国に隣接している。そして、東南アジアでは唯一の海を持たない内陸国である。長期休暇の旅行先として人気の東南アジアに位置するものの、日本では圧倒的に知名度が低い。その一方、2018年にはニューヨークタイムズ「Places to Go」の中では、ラオス北部の世界遺産都市ルアンパバーンがアジア1位に選ばれるなど、世界ではラオスの人気は急上昇している。人気の観光地には人気のカフェはつきもので、LuLaLao Coffee Flagship Storeは、ルアンパバーン観光のランドマークにもなっている。

こうしたラオスのカフェ文化を支えてきたのは、ラオス南部のボラベン高原で栽培されているコーヒーである。ラオスで生産されている品種はアラビカ種のティピカ、カネフォラ種のロブスタ、ティピカとロブスタを掛け合わせたカティモールの3つが主である。

ラオスのコーヒーはいつ、どこからやってきたのか?

もともとラオスにはコーヒーノキは生息していなかった。となると、誰かがどこかのタイミングでラオスに持ち込んだことは明白である。いつ、どこから、誰が持ち込んだのであろうか?

コーヒーの起源については別記事『コーヒーの起源』を参照してもらいたいのだが、ラオスへコーヒーが持ち込まれたのは1905年のことである。当時はフランスに統治されていたが、現在のラオスという国家形成が成される前であり、ランサーン王国の面影もなくなっていた時代である。

フランス政府から管理者として派遣された J.J. Dauplayは、ボラベン高原に初めてコーヒーだけでなくさまざまな作物を持ち込み、試験栽培を始めた。後に彼の名前がついた農業調査試験所が設立されるなど、ラオスにおける農業開発への貢献が大きかったことがわかる。1940年にはフランス政府主導のもとにコーヒーの輸出量は3000tに達していた。この頃に栽培されていたのは、主にティピカとロブスタの2種類だったと推察される。 

どのようにラオス産コーヒーは拡大したのか?

 1975年に現在のラオス人民民主共和国が成立し、政治・経済ともに社会主義体制へと移行した。しかし、1991年に市場開放政策が採用され以降、ラオス政府は外貨を獲得するための農作物としてコーヒー栽培の強化に着手した。その例として、ラオス政府は1991年にコーヒー調査実験センター(現:南ラオス農業森林調査実験センター)を、1994年にはラオスコーヒー輸出協会(現:ラオスコーヒー協会)を設立した。コーヒー調査実験センターによってもたらされたのが、アラビカ種とカネフォラ種を交配させたカティモールである。カティモールはカネフォラ種の病耐性を兼ね備えたアラビカ種であり、収穫量はティピカよりも多く、大量生産・大量輸出に適していた。

さらに2000年代には、民間企業の活躍もあり転換期を迎えた。ラオスの誰もが知っている Dao Coffee や Sinouk Coffee といった大企業の登場、さらにはタイ・ベトナム企業のラオス進出はこの時期に始まり、現在に向けて輸出量が増えている。 

以上がラオスにコーヒーが持ち込まれた背景、そしてどのようにコーヒー生産が広まったのかを簡単にまとめたものである。次はもう少し現在のラオスに焦点を当ててみようと思う。特に、コーヒー生産はラオス全土で行われているのであろうか? 農園見学するにはどこへ行けばいいのだろうか?という疑問に答える。

 

2. ラオスのコーヒー生産地

ラオスのコーヒー生産地 - ラオス南部ボラベン高原 -

ラオスのコーヒーと言えば、まずはラオス南部のボラベン高原である。ボラベン高原はチャンパサック県、サラワン県、セコン県、アタプー県にまたがる広大な高原で、国内外の観光客に人気の観光スポットとして有名。しかし、コーヒーの文脈でボラベン高原と言う場合には、チャンパサック県のボラベン高原にあるパクソン郡の農園を指す。標高900m〜1500m、平均降雨量は2,624.9 mm、年間平均気温が 20度で、ラオスの中では比較的冷涼多雨であり、コーヒー栽培に適していることがわかる。

パクソンには大小合わせて数百の農園があり、中にはカフェやホテルなども併設されている農園もある。農園のほとんどは個人が持つ1ha程度の土地で育てられた木々であるため、名前を持たない農園も多い。彼らは収穫したコーヒーチェリーを精製せずに大企業に買い取ってもらったり、組合に買い取ってもらう。ラオスにある組合で有名なのは Oxfam 生産協働組合や Jhai Cafe 農民共同組合などがある。

新しいコーヒー生産地の模索 - ルアンパバーン・シェンクワン -

ここ数年はラオスの北部にあるルアンパバーン県やシェンクワン県でもコーヒーの生産が始まっている。ルアンパバーンの名物カフェの SAFFFRON COFFEE は農園支援を行っており、日本の大手コーヒー卸業者とも取引がある。その他にはラオス商工省から認証を受けているコーヒー農園もあり、栽培・収穫・精製などの技術支援を受けて、他にはない特徴的なフレーバーを持つコーヒーを生産している。 

シェンクワン県はルアンパバーンほどではないものの、いくつかのコーヒー農園がオープンしている。Lao Coffee Lab の栽培・精製試験所の一つはシェンクワン県にあり、ここで実験された内容や結果が全国のコーヒー農園・農家に無償で伝えられている。

ラオスで農園見学するにはどこへ行けばいいのか? 

観光客として確実に見学できるのはパクソンのコーヒー農園である。ラオス南部チャンパサック県の県都であるパクセーから東に約40km、パクセーから車で40分ほどで到着する。

ある程度の人数なら事前に予約しなくても、見学だけなら農園は対応してくれるだろう(ただし、ほとんど英語は通じず、ラオス語かタイ語が必須)。標高や地域差はあるものの、ティピカの収穫時期はおおよそ11月上旬から1月上旬あたりである。もちろん、収穫や精製を体験するためには事前に相談する必要がある。収穫期でなくてもコーヒーの木は栽培されているし、農園以外にも見どころ満載の観光地は多い。日中は30度を超えるが、夕方になると20度前半になるので、長袖や羽織ものは必携である。 これまで触れた南部と北部以外にも、実はラオス中部でもコーヒー生産者は存在する。ビエンチャン県(首都とは異なる)やサイニャブリー県といったラオス中部でもコーヒー栽培は行われているものの、農園とは言えないのが現状である。数百本程度のコーヒーの木が適当に植えられているだけであり、精製などもまともに実施されていない。2022年度の収穫時期から農家・政府・Lao Coffee Lab の3者が協力して品質改善に取り組む予定である。こちらのプロジェクトも可能な限りブログ内で紹介する予定である。

ここまでは、生産地についての話がほとんどであった。次ではようやく ラオスのコーヒーってどんな味・フレーバーなの? について、中でも特にティピカのナチュラル精製に焦点を当てて説明していく。ぜひラオス産ティピカの珈琲を片手に読んでほしい。

 

3. ラオス産ティピカの特徴は?

先に断りを入れておくと、珈琲という液体は栽培・収穫・精製・焙煎・抽出によって、香り・酸・ボディなどは大きく変わる。それを踏まえて、ここでは一般的なラオス産ティピカの特徴を説明していく。

私が考える最大の特徴は、甘さ・酸味・コクのバランスである。そのバランスを上手く調和させているのが果実感で、それも、ねっとりとした完熟感がある。他の果物に例えるのであれば、マンゴーのような舌触り、ダークチェリーのような香り、微かに青リンゴのような酸味がある。急に他の果物の名前が出てきたため混乱するかもしれないが、本当に果実を感じる珈琲である。また、焙煎豆をグラインドしてすぐに香りを嗅ぐと、あんこ入り和菓子のような甘い香りがする。グラインド前・グラインド後・お湯を注いでからの3度も香りを楽しむことができる。初めてラオス産ティピカ珈琲を飲んで、ある人は「果物みたい」、またある人は「スイーツみたい」と言うことが多い。

すべてのラオス産コーヒーが評価されているわけではない。

このように高い評価を得ているラオス産コーヒーは、いくつもの農園から出されており、日本を含めた世界市場に届けられている。この20年で年間の生産量は急増しており、世界的にもラオス産コーヒーの需要が高まっている。

それでは、ラオス産のコーヒー全てが香り高く、複雑に酸味が表出され、適切なコクがあるのかというと、答えは NO である。先にも述べたように、自宅の裏庭に昔から植えられており、実がなるから収穫しているだけの農家も多い。また、初めから品質にはこだわらずに大量生産を目的とした農園もある。彼らのコーヒー豆は大手の飲料メーカーなどに販売し、インスタント珈琲用に加工され、他国の豆などと混ぜられる。そのため、質よりも量が求められるのである。いわゆるコマーシャルと呼ばれる品質である。

シングルオリジンとして飲むことができるラオス産のコーヒーは、およそ全体の10%にも届かないと考えている。これはLuLaLao Coffeeの推察であり、統計データが存在するわけではない。だが、日本だけでなく世界で飲むことができるラオス産コーヒーの少なさからも、現実的な数値に思える。

コマーシャルにしてもスペシャリティにしても、それぞれの農家が採用している戦略があるため、尊重すべきである。しかし近年のコーヒーブーム、さらにはシングルオリジンブームの中で、珈琲愛好家のみなさんに「ラオス」という選択肢を持ってほしいLuLaLao Coffeeは、シングルオリジンのラオス産コーヒーを届けたい。そのために、ラオスのコーヒー農園で発芽から収穫までを支援しているのである。

 

4. ラオス産コーヒーの未来図

LuLaLao Coffee はラオスのコーヒー農家・ラオス政府・ラオス企業、さらには日本のコーヒーロースターなど、たくさんの人を巻き込んだコーヒーチームである。日本だけでなく世界のコーヒー市場にラオス産コーヒーを届け、ラオスのコーヒー産業の発展を目指している。そして、珈琲愛好家のみなさんにとって「ラオス」という国も選択肢の一つになれば嬉しい。コーヒーでは選ばれなくても、ラオスという国の存在感を高めて、海外旅行の選択肢になれば、それはそれで嬉しい。

まず日本中に広めるためには、ラオス産コーヒーを取り扱っているカフェやロースターから評価があってこそである。そのため、今のところ日本国内だけではあるが、ラオス産コーヒーの取扱店舗をまとめている。 LuLaLao Coffee で購入してもらうこともできるが、提携店舗にも足を運んだり、ネット注文してみてほしい。それぞれの店舗で焙煎や抽出が異なるため、好みのラオス産コーヒーが見つかるかもしれない。

 

ここまで読んでくれた珈琲愛好家・ラオス愛好家のみなさんに、これからも幸せなコーヒーライフを!!

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